心に浮かんだことをそのまま書いた妄想文です。

 

 

くもった夜空を見上げながら私はため息をつく。

今日だったのに。

今夜は星がもらえる日だったのに。

大雨を降らせるでもない薄曇りの空を見上げて私は思う。いっそ豪雨でも降れば諦めもつくのに。

 

星をくれるのは、ずっと前に夜空に帰った大男だ。

彼はいつも私に星を渡して笑った。

夜空から星をはずす時は背伸びをして、それからほこりを払うように星をパンパンと軽くはたき、そっと私の前に差し出した。

 

公園には広い土地があったけれど、大男が自由に歩き回れるスペースはそんなに無かった。公園の土地は基本的に草木や遊歩道で埋められ、大男が踏み荒らす土地は、公園のすみっこの(大男にとっては)ほんのぽっちりの場所だった。

  

大男はその中でも低い丘に好んで座っていた。時には立っていた。

私が行くと、大男はこちらに顔を向けてにかりと笑い、星を採るために夜空を見上げた。

 

どれがいい?

話さない大男が私の目を見て問いかける。

 

どれでも。

ああ、でも今日は赤いのがいいな。

 

私も目で答える。

 

意思の疎通が取れているのかどうか、星は私が欲しい色だったりそうではなかったりした。

いつもなんとはなしに申し訳なさそうな顔をしている大男が、しょぼくれているとも取れる表情でくれる星は、私の希望の色を採れなかった結果なのかは、結局わからなかった。

 

星は私の手のひらを温め、抱えた胸を温めた。

制服のタイトスカートのてかりは、星の光を受けてしずかに輝いた。

 

大男は夜空に帰った後も、星を私に採ってくれる。

 

どれがいい?と彼は聞き、私は赤いのが欲しいなと答える。

夜空を自由に歩き回る彼は、今度は間違いなく赤い星を、青い星を、私の欲しい星を空からそっとはずし、空の上から手を伸ばして、私の手のひらに落とし込む。

 

でも、残念なことに、今日の空はくもっている。

美しい夜空の中に立つ、困り顔の大男が見えるようだ。

 

昔は町役場に提出していたそれを、私は誰にも渡すことなく、大事に家に持って帰る。

星の色で光るそれは、大男と私の宝物だ。ずっと。

 

 

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