心に浮かんだことをそのまま書いた妄想文です。

 

 

私の公園にはキリンがいる。

公園の隅の方でいつもため息をつきながら空を見上げている。

キリンの色は赤。ゆがんだ青い水玉模様柄が散らばっている。 

 

キリンのため息は怒りのため息だ。

「腹が立って仕方が無い」

公園を巡回している私にキリンはぼやく。

「そうだねえ」

毎日おなじ事を言うキリンに、私もおなじ言葉を返す。

キリンには恋人がいて、恋人は空の彼方にいるという。

「ぼくは飛べないからさ」

大きなため息をついてキリンが長い首をぶるんと振ると、そばの木の葉がざわざわ揺れる。

「キリンはもともと羽根なんかついてないからね、飛べないし、会いに行けないんだよ」

恋人がそんなに遠くにいるのが理不尽だとキリンは怒る。

恋人と離れているなんて、そんなのひどいとキリンは首を振り立て、足を踏みならす。

そして、大きなため息をついて言う。

「きっとあの人も僕に会いたがってる。きっと寂しがってる」

 

キリンはある日ここにいて、ずっとぼくここにいましたけど、なんて顔をして、それからホントにずっとここにいる。

はじめはどうしようかと思ったけれど、キリンは公園の端で空を仰ぎ、ぷりぷり怒っているだけだったので、いつのまにか受入れてしまった。

  

小鳥はさえずり、キリンは怒る。草が風に吹かれてさわさわとざわめき、キリンはぷりぷり怒って文句を言う。

「会いたいんだよ」

 切ない声で空を見上げる。キリンの首はそうやって伸びたのかもしれない。

「なんで会えないんだよ」

「そうね」

 キリンの恋人はキリンなのだろうか。空の彼方のどこにいるのだろうか。ひょっとして羽根のある恋人だったら、飛んできてくれたりしないのだろうか。

「あの人は夜を怖がったからね、夜には絶対家の外に出ない。だからあの人が僕を探して空を見上げているのはお昼だけなんだ」

 キリンは夕方の赤い空気の中で、空に向かって目をこらす。長いまつげに囲まれた大きな瞳が潤んで、空の赤を映し出す。

 もっちりした唇をむっとしたようにへの字にひん曲げて、それは泣くのをこらえているのか、ただ怒っているのか。

 

恋人は夜はうちの中ですごすから。だから夜は空を見なくてもいいんだ。

そう言いながらキリンは夜空に向かって首を差し伸べる。人間が切なく星に手を伸ばすように。

  

 恋人が、せめてキリンと同じように空を見上げてくれていますようにと私は思う。

 同情ではなく、なんというのか見ていてあまりにも胸がキリキリするので。

 

 今日もキリンは夕焼の中で空を見上げる。

 夕方に見回る区域なので、キリンと夕焼は私の中でセットになっている。

  

 全身を赤く染めながら、怒りながら、キリンはひたむきに空を見上げる。

 彼の怒りは、目に映る夕焼をさらに赤くする。

 キリンの視界は、赤に染まっているのかもしれない。

   

 

 

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